産業用シートから生活を彩るシートまで
情報誌みらい

連載記事 環境を考える

連載記事(5) 化学物質のリスク評価

前回の環境を考えるCの中で詳細を省略した「化学物質のリスク評価」について、今回は説明したいと思います。

(1) 化学物質とは
  この「化学物質」という言葉を三省堂の「化学小辞典」(第4版)で引くと実は載っていません。東京大学の渡辺教授によると、

 『広辞苑』にお伺いを立てると、旧版にはなかったのですが最新版にはあって、「物質のうち、特に化学の研究対象になるような物質を区別していう語。純物質にほぼ同じ」と解説しています。それがホントなら学校で教えてもよさそうなところ、中学理科も高校化学も「物質」だし、大学だって同じです。

とのことで、私たちは、学校で化学物質という言葉を習わなかったらしいのです。それでは、何と習ったのでしょうか、渡辺教授の言っているように「物質」と習ったのです。


  それでは、環境問題では当たり前のように使われている「化学物質」とは、どんな意味で使用されているのでしょうか。愛知県のホームページ(http://www.pref.aichi.jp/kankyo/jigyo/prtr/05kenmin/c.html)では、次のように書かれています。

 一般的には「化学反応を起こさせることにより人工的に得られた物質」と狭い意味で使われることが多いのですが、広い意味では人工の化学物質だけでなく、天然に存在する化学物質も含んだものを表しています。
  法令上はその対象とする化学物質をそれぞれ定義しています。
  「PRTR法」や本県の「県民の生活環境の保全等に関する条例」では、化学物質は「元素及び化合物(それぞれ放射性物質を除く。)」と広く定義しています。2種以上の元素の原子が化学結合により結合することを化合といい、化合によってできた新しい純粋な物質を化合物といいます。これに対し、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)では化学物質を「元素又は化合物に化学反応を起こさせることにより得られる化合物(放射性物質及び次に掲げるものを除く。)」と狭く定義しています。

 このように、一般的に使用されている場合と、科学的に使用される場合、そして法律で定義されているものを使用している場合があります。一般的には人工的な物質と解釈されている場合が多いようですが、科学的に考える場合は、「物質」の意味で人工物以外に天然の物質も含まれます。従って、化学物質のリスク評価でも科学的な立場で化学物質を使用しています。

(2) 化学物質の有害性
  化学物質は、全て有害なのでしょうか。この問いは、ある意味では全て有害であり、ある意味ではほとんどのものが無害となります。何を言っているのかと叱られそうですが、化学物質は適正量以上摂取すると全て有害になります。例えば、塩や醤油を考えてみてください。塩分は人間が生きていくためには必ず取らなければならないものですが、お医者さんに塩分の取りすぎを注意されるように、必要以上に摂取すると毒となり、死にいたる場合もあります。このように健康に有害な影響を生じることの無いように、食品中の残留基準や、水道水質基準、環境基準など、いろいろな基準が法律で設定されています。
  有害性に関しては、先ほどの愛知県のホームページに次のように記載されています。

 「有害性」とは、人の健康を損なう性質のことだけを示すこともありますが、PRTR法では人の健康だけでなく、動植物の生息や生育に支障をおよぼすおそれも含めたものとしています。対象化学物質は次の有害性と環境中の存在量の両面から選定されています。有害性の高さの判断はランクづけによっています。 

  1. 発がん性(悪性腫瘍を発生させる性質)
  2. 変異原性(遺伝物質であるDNAや染色体に損傷を与え突然変異を起こす性質)
  3. 経口慢性毒性(食品や飲物または胃内への直接投与により摂取された物質によって引き起こされる慢性毒性)
  4. 吸入慢性毒性(呼吸によって反復して長期間にわたって体内に入る化学物質による慢性毒性)
  5. 作業環境許容濃度(ほとんどすべての労働者が毎日繰り返し暴露を受けても健康障害を起こさない濃度) 
  6. 生殖/発生毒性(催奇形性を含む)(生殖細胞の形成から、交尾、受精、妊娠、分娩、次世代の発育、成熟に至るまでの一連の過程のいずれかの時期に作用して、生殖や発生に有害な影響を及ぼす毒性)
  7. 感作性(化学物質への反復暴露によって気管等を刺激し、暴露された人または動物の大部分のその正常な組織にアレルギー様症状を起こす性質)
  8. 水生生物(藻類、ミジンコ、魚類)に対する生態毒性
  9. オゾン層を破壊する性質(オゾン層を破壊し、太陽紫外放射の地表に到達する量を増加させることにより人の健康を損なうおそれがある。) 

 

  当初は、人の健康だけがターゲットでしたが、PRTR法の改正により動植物の生息や生育に支障を及ぼすものの評価も追加されています。


  このランクづけの中で3.経口慢性毒性と4.吸入慢性毒性について少し補足します。3.口から摂取する場合と4.呼吸などで吸入する場合を分けているのは、化学物質によって毒性が異なる場合があるからです。

   シックハウス症候群で有名になったホルムアルデヒドという化学物質が、水に溶けた状態をホルマリンと言います。2003年9月にふぐの養殖にホルマリンを使用していることが問題になり、テレビや新聞で大きく報道されたのを覚えていらっしゃるでしょうか。実は、このホルムアルデヒドは、呼吸によって摂取した場合のみ発ガン性が疑われています。もちろん口から入れる場合も大量に摂取すると問題が起きますが、現在のところ、経口摂取による発ガン性は確認されていません。つまりホルムアルデヒドという気体の状態で発ガン性が確認されていて、ホルマリンなどの液体の状態では、発ガン性が確認されていないのです。

   ホルムアルデヒドは、野菜や椎茸などにも微量含まれていて我々は、それを食べています。また、薫製はホルマリンによって保存性を高めた商品です。経口だからといってたくさんとるのはよくないのですが、通常口にしている程度であれば問題ないとされています。

   今、インドネシアで同じようにホルマリン騒動が起きているそうです。前の日本と同じように3.経口慢性毒性と4.吸入慢性毒性の違いが正しく報道されていないのだと思います。

   ちなみに我々が使用しているポリ塩化ビニル樹脂のモノマー(高分子の繰り返し単位。モノマーが数千個化学結合して高分子となる。)である塩化ビニルは、常温で無色無臭の気体もしくは液体なのですが、国際ガン研究機関(IARC)はこの物質をグループ1(人に対して発ガン性がある)に分類してます。しかし、この塩化ビニルが約1000個以上繋がって出来ているポリ塩化ビニルには毒性は認められていません。


(3) 化学物質のリスク評価
  化学物質のリスク評価に関しては、環境省が発行している化学物質ファクトシートに下記のように説明されています。

 化学物質の環境リスクとは、環境中に排出された化学物質が人の健康や動植物の生息又は生育に悪い影響を及ぼすおそれのあることをいいます。その大きさは、化学物質の有害性の程度と、呼吸、飲食、皮膚接触などの経路でどれだけ化学物質を取り込んだか(暴露量)で決まり、概念的には次のように表されます。

              化学物質の環境リスク=有害性の程度×暴露量
  
  化学物質は、安全なものと有害なものに二分することはできません。例えば、有害性が低くても大量に暴露すれば悪影響が生じる可能性は非常に高くなり、逆に有害性が高い物質であってもごく微量の暴露であれば、悪影響が生じる可能性は低くなります。技術的、費用的な面で限界があるものの、暴露量を少なくしたり、有害性の低い物質を使用したりすることで、環境リスクを低減することができます。このため、化学物質の適切な管理と使用が望まれます。
(出典:化学物質ファクトシート 環境省)

 先ほどのホルムアルデヒドは、環境中に多く存在するため、暴露量が多く、しかも吸入による発ガン性が指摘されているため、有害性の程度も高いとされています。従って、監視重要化学物質として色々な法律で基準値が設定されています。また、ポリ塩化ビニル樹脂のモノマーである塩化ビニルは、有害性の程度は高いのですが、環境中にほとんど存在しないため、化学物質の環境リスクとしては低い化学物質とされています。このように、有害性の程度と暴露量の両方を考慮した形で化学物質のリスク評価は行われています。

連載記事
ページの先頭に戻る
HOMEサイトマップ会社案内製品用途テクノロジー新製品・事例情報誌みらいお問合せ・資料請求よくある質問
Copyright(c)2005、Hiraoka Shokusen Co.、Ltd. All rights reserved