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情報誌みらい

連載記事 環境を考える

連載記事(4) 環境科学という学問(2)

   前回に引き続き、「環境科学」という大学教養学部の教科書から引用を続けます。第2章は、産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センターの蒲生昌志氏が書かれています。テーマは、“人間はどこまで長生きしたいか”です。
  この章では、『2‐1 環境問題と健康がどう係わってくるか』、『2‐2 寿命とは何か』、『2‐3 化学物質によるリスク』、『2‐4 健康に長生きする』、『2‐5 寿命を延ばすのにかかる費用』、『2‐6 人間はどこまで長生きしたいか』が書かれています。
  『2‐1 環境問題と健康がどうかかわってくるか』では、環境問題を相対化してみるために健康を軸にして環境問題を考えることを提案しています。
  『2‐2 寿命とはなにか』では軸として使う具体的な道具として、“寿命”という物差しについて解説しています。
  蒲生氏は、「厚生労働省の平成16年簡易生命表によれば、日本人の平均寿命は、男性78.64年、女性85.59年であり、世界一の水準にある」と述べています。この平均寿命は、近年になるまでかなり短かったようです。「青銅器・鉄器時代のヒトの寿命は18年ほど、2000年前のローマ時代で22年ほど、18世紀で30年ほどと推定されている」と書かれています。日本を見てみますと「縄文時代が15年ほど、江戸時代で25〜45年ほど、明治初期から第二次世界大戦直後までは、40〜50年だ」と言われています。平成16年のデータは前に記したとおりで、「こと寿命と言うことになると戦後確実に伸びている」ことになります。寿命が延びた要因としては、「乳幼児の死亡率の改善が大きく寄与し、また、肺炎、結核、赤痢といった感染症が十分コントロールされるようになったことも大きな要因」と述べています。そして、「これらを実現できたのは、抗生物質などの医薬品の開発や、健康診断の普及によると思われがちだが、むしろ栄養状態や衛生水準の改善こそが寄与したと考える方が自然だ」と述べています。
  このように時系列的に平均寿命のデータを見ると日本に限っては順調に延びており、特に健康状態が悪くなったとは思えません。しかし、我々の感覚としては、寿命が延びたからといって健康になったとは思わないのが普通です。このことについて、蒲生氏は「高齢化することにより、死亡原因は変わってきており、(1)悪性新生物(いわゆるがん)、(2)心疾患、(3)脳血管疾患、(4)肺炎が死因の上位を占めている。これらは、環境の悪化が原因ではなく、むしろ寿命が延び、高齢化が進んだために起こっている現象」と述べています。平均寿命が延びると当然高齢者の数が増え、その結果、高齢者に起こりやすい疾患が見かけ上増加しているのです。「年齢構成を1985年の人口にそろえて計算し直すと脳血管疾患は著しく減少していて、その他の場合は減少傾向か横ばいの状態。つまり、さまざまな死因をコントロールして長生き出来るようになったため、結果として、皆が恐れるがんで死ぬ人が増えているという皮肉な状況」なのだそうです。
  『2‐3 化学物質によるリスク』では、「健康に対する脅威としての関心が最も高いのは、環境汚染物質ではないか」ということで、化学物質をとり上げています。アスベスト、ダイオキシン類、環境ホルモン、残留農薬といった話題がニュースや新聞をにぎわせたことは記憶に新しいところです。これらの環境汚染物質と思われている化学物質は、健康にどれくらい影響を与えるのでしょうか。蒲生氏は、「世の中にある何千何万という化学物質を上手に利用していくため、基準値を決めないまでも、それぞれの化学物質が有害な影響をもたらす危険性がどのくらいなのかを評価することは重要」と述べています。これを化学物質のリスク評価と呼んでいます。詳細は省きますが、環境汚染物質に関してのリスクランキングを参照すると、メチル水銀、ダイオキシン類などの環境汚染物質は、喫煙に比べると非常にリスクが低いと言われています。つまり、死亡に繋がるような大きな要因とはなりにくいと言うことです。


  もう一つ、この章ではリスクトレードオフに関して書かれています。リスクトレードオフとは、「あるリスクを減らそうとして他のリスクが発生したり増加したりすること」です。例えば、「水道水の塩素処理は細菌汚染を防ぐには不可欠なのですが、原水によっては、発ガン性をもつトリハロメタン類が高濃度で生成してしまう」こと等です。科学では、リスクがないことを証明できません。せいぜい、現時点では、こうしたことが言えるというレベルでしか話が出来ません。従って、環境問題や化学物質をあつかう時は、このトレードオフを常に念頭に置いて考えていくことが重要なのです。
  『2‐5 寿命を延ばすのにかかる費用』では、リスク便益分析が紹介されています。これは、1年の余命を救うのにどれくらいの費用がかかるかを示すもので、環境問題を考える上では、費用対効果を考慮しなければならないことが書かれています。
  『2・6 人間はどこまで長生きしたいか』では、ゼロリスクに関してナンセンスだと言っています。その理由として、リスクがないことを科学が証明できないこと、トレードオフを考慮すると何らかの形でリスクは生じること、一定以上に小さくなったリスクをさらに小さくするには大きな費用が必要になることを上げています。ダイオキシン問題や環境ホルモン問題、アスベスト問題など化学物質がかかわっている環境問題では、上に記したことを考慮した上で、どうしたらよいかを考えていく必要があると思います。

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